コロナ禍における製造業の現状と課題は?
2021年 08月26日
今、多くの製造業が苦境に立たされています。その背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大、デジタル化への遅れ、少子高齢化など、さまざまな要因が絡み合っています。
なかでも、新型コロナウイルス感染症の拡大は、サプライチェーンの寸断、需要の後退など、製造業に大きな影を落としています。
環境変化の激しい今、製造業でも、業績の維持・拡大に悩んでおられる経営者は多いと思われます。そこでここでは、国内の製造業の現状と課題について解説していきます。
新型コロナウイルスの影響で購買担当者の景況感が下落
製造業の景気動向をはかる一つのモノサシとして「PMI(購買担当者景気指数)」という指標があります。これは、企業の購買担当者などの景況感を集計した指標です。
PMIの数値は、「50」を分岐点として、それを下回るようであれば景気が悪化していることを示しています。
auじぶん銀行が2020年に公開した「日本製造業PMI」調査によると、WHOが新型コロナウイルスのパンデミック宣言を出す前の2020年1月の時点でPMIは「48.8」となっていました。その後、2020年5月には「38.4」にまで下がっています。このPMI指標からも、新型コロナウイルス感染症の拡大で、製造業が大きな打撃を受けていることが分かります。
新型コロナウイルス感染症は、国内だけでなく、世界中の経済に大きな影響を及ぼしています。サプライチェーンの分断や需要の後退で、世界の製造業では、調達、生産、物流、販売などに影響が出ており、生産ラインを停止する企業も相次いでいます。
DX化の推進で、製造業も企業変革力の向上を
国内の製造業にとって、もうひとつの大きな課題が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」化です。DX化では、業務のデジタル化という「部分最適」だけでなく、事業や組織のあり方そのものを改革する「全体最適」が求められています。
変化の激しい今日、製造業においてもDX化を推進し、新たな市場価値を創出できる企業変革力を向上させていくことが必要です。
日本の製造業が抱える3つの課題
新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう影響だけではなく、我が国の製造業では、コロナ以前から、幾つかの課題を抱えていました。その中から、ここでは3つの大きな課題について解説していきます。
課題その1:労働人口の減少と市場の縮小
日本では、2008年の1億2,808万人をピークに総人口の減少がつづいています。また、少子高齢化の影響もあり、さまざまな産業で市場が縮小しています。
2021年3月の時点で日本の総人口は約1億2,548万人。労働人口も減りつづけています。また、65歳以上の高齢者数は2020年10月時点で約3,619万1,000人となっています。これは総人口の28.8%を占める割合であり、先進諸国の中でもトップの高齢化率となっています。
このため労働人口が減少し、製造業では人手不足が顕著になっています。人口の減少に伴い市場も縮小しており、一部の製品を除いて売上の拡大も難しくなっています。課題その2:生産現場でのIT活用の遅れ
ドイツ政府が主導する「インダストリー4.0」に代表されるように、今、製造業では大きな転換期を迎えています。現在、製造業は第4次産業革命の渦中にあるとも言われています。しかし、日本の製造業では、IT技術の導入が遅れており、第4次産業革命への対応も進んでいません。これは、一つには経営層がDX化への意識が薄いこと、さらに、製造現場でも熟練技術者を中心に設備・機械のIT化に抵抗があることが原因となっています。
また、業務や製造機器がデジタル化されたとしても、それを使いこなす人材が不足してしまっているということが課題となっています。今後は、人口減少と少子高齢化が重なり、ますます人材確保の重要性が増していくことも予想されています。課題その3:技能継承が進んでいない
製造の現場では、長年にわたって技能を磨いてきた熟練技術者の定年退職が相次いでいます。しかし、この熟練技術者の技能を、スムーズに若手に継承できていないことが課題となっています。
製造現場では、熟練技術者からのヒアリングやビデオなどから、作業手順書やマニュアルを作成し、懸命に技能継承に取組んでいますが、あまり成功しているとは言えません。
熟練技術者は長年培った「カンやコツ」で仕事をしており、その暗黙知をマニュアル化することが難しいからです。
この問題を解決するためには、技能の見える化が必要となってきます。技能を数値化・データ化できれば、技能継承に役立つばかりでなく、製造機器の自動化のためのデータとしても活用できます。
今後、日本の製造業が取り組むべき対策
これから日本の製造業が世界で競争優位性を確立していくためには、どのような取り組みが求められているのでしょうか。ここでは、今後、日本の製造業が取り組むべき対策について解説します。
スマートファクトリーの導入
これからの第4次産業革命の時代に、製造業が生き残っていくためには「スマートファクトリー」の導入が重要となります。
スマートファクトリーとは、一般的にデジタルデータの活用により業務プロセスの改革、品質・生産性の向上を継続・発展的に実現する工場と定義されています。ドイツ政府が提唱した国家プロジェクトの「インダストリー4.0」を体現した工場で、AI(人工知能)やIoTなどの先端的な技術を取り入れている工場のことを指しています。
IoT機器によって得られたデータを管理・分析すれば、稼働状況やエネルギー消費量の可視化、情報の蓄積などが可能となり、業務プロセスにおける無駄を洗い出すこともできます。このため、従来では考えられないほど生産性の向上が期待できます。働き方改革による労働環境の改善
製造業は、ともすれば厳しい労働環境にあると思われていました。しかし、2019年4月に「働き方改革関連法」が施行され、製造現場でも働き方の見直しが進みつつあります。
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、多くの企業でテレワークの導入が進んでいます。しかし、製造業ではテレワークが導入出来ない業務形態が多いため、設備の自動化やIoT化によって業務を効率化し、働き方改革を促進していくことが必要となります。
労働環境の改善は、従業員の定着に結びつくだけでなく、新たな人材の確保にもつながります。人手不足を解消していくためにも、働き方改革は重要なポイントとなっています。
まとめ
新型コロナウイルス感染症の拡大により、従来から製造業が抱えていた幾つかの課題が、より鮮明に浮かび上がってきました。
将来的な業績の向上に結びつけていくためにも、今の課題をしっかりと把握して、その解決策を実施していく必要があります。
「DX化」「技能伝承」「スマート工場化」「働き方改革」など、幾つかのキーワードが見えています。それらは互いに絡み合っており、総合的な視点からの施策実施が重要です。
アフターコロナを見据えて、今から、会社の課題の発見と解決に取組み、積極的な改革を進めていってはいかがでしょうか。